僕と息子と釣り針と3 転勤編 [序章]
サラリーマンの宿命・・・それは転勤だ。
転勤経験のない人もいるだろう。
少なくとも私は7回の転勤を経験してきた。
そしてその殆どは、事前の相談もなくいきなり伝えられた。
本人は良いとして、大変なのは家族だ。
学校は?
幼稚園は?
近所付き合いは?
子供が大きくなれば、それこそ家族の一大事となる。
「ゴルゴ13」に似た上司は、圧倒的な力を持っていた。
社内ではNO.2の位置に君臨し、そして誰よりも怖い顔の持ち主だった。
もしも「怖い顔選手権」があったとしたら、間違いなく優勝していただろう。
今まで、彼に逆らった社員はいなかった。
勿論、私も逆らう気などさらさらなかった。
って訳で、山口行はすんなりと?決まってしまったのだ。
息子との約束を残したまま・・・
転勤が決まると、だいたいお決まりの行事が待っている。
会社の送別会。
近所のお別れ会。
そして転勤先での歓迎会。
毎日毎日、死ぬほど酒を飲んだ。
そして、すっかり忘れていた。
息子との約束・・・
引っ越して間もない日曜日。
まだ、段ボール箱が散乱している部屋の中で、
小学校4年の息子は、ゴソゴソと探し物に夢中になっていた。
息子 「パパ、あったよ!!」
私 「ん?何が?」
息子が探していたのは、埼玉の釣具屋で買った
一本1000円の釣り竿だった。
日本一汚いどぶ川で使うには、これで十分だった。
息子 「ヤマメはいつ釣りに行くの?」
私 「え~とねぇ、その竿じゃダメなんだよなぁ」
息子 「パパ、ヤマメ釣った事あるの?」
ヤマメを釣った事?
そんなもん、ある訳がない。
だいたい、埼玉のペットショップで
生まれて初めて見たんだし。
と、そんな事も言える訳もなく、
半信半疑な息子を連れて、とにかく釣具屋へ直行。
初心者用の渓流釣りセット
(そんなセットはなかったが)
を二人分購入し、初めての渓流釣りに
期待と不安を抱えたまま帰宅。
「さ~て、どうするかなぁ」
日本一汚い川で銀ブナを釣るのとは訳が違う。
いくら山口でも、その辺の川にヤマメがいる筈も無い。
とにかく、息子には内緒で本屋へ行き、
渓流釣りの本を何冊か購入した。
一冊目、二冊目と読んでいくうちに、
私は渓流釣りをナメテイタ事を深く反省した。
そしてこの先、渓流釣りがとっても危険に溢れた・・・
下手をすると命を懸けた釣りである事を
嫌というほど思い知らされるのだった。
まぁ、何とか生きてますが(笑)
下手をしたら、多分10回くらいは死んでたはずです(-_-;)
インディージョーンズの気持ちがよく分かりましたよ、ハイ!!
僕と息子と釣り針と その2 [序章]
思い返すと、私は息子としか釣りをしていない。
勿論、一人で釣りに行った記憶もない。
と言うか、息子意外の誰ともと釣りをしていない。
それには、深い事情があったのだ・・・
(それほど深くないかも知れないが)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ある日の事。
突然、上司から電話が入った。
「転勤だ。山口に行ってくれるか。」
山口???
何でいきなり山口なんだと思いながら、しかしその時の私は
断るという選択肢を持ち合わせていなかった。
何故なら・・・
その当時の上司は、見た目で言うと「ゴルゴ13」に似た
とっても厳つい顔の、全く堅気には見えないタイプの人だった。
↓本当にこんな感じの上司でしたよ(-_-;)
だから、断る理由なんてみつかるはずも無かった。
何も知らない家族にそれを伝えなければならなかった。
嫁はそれほど反対しないかも知れない。
娘は小さいから反対する術を知らないだろう。
息子は・・・
学校の友達・近所の遊び仲間。
小学校4年でも、それなりの世界が出来ている。
どうやって説得しようか・・・
ん?
ヤマメ!!
確か山口にもいたはずだ。(正確にはヤマメではなくアマゴだったが)
息子に話すと、二つ返事でOKだった。
何故なら、私は苦し紛れに息子とある約束してしまったのだ。
「山口に行ったら、渓流釣りができるぞ!!」
「ヤマメを釣りに行けるんだ。」
「どうだ、山口に行ってみるか」
「毎週日曜日は渓流釣りだ~!!」
男と男の約束だった・・・
珍しく計算通りに進む展開に、いささか不安を感じながらも、
その時は深く考えてはいなかった。
毎週・・・日曜日・・・渓流釣り・・・
酒の力とは恐ろしいもので、何度となく酷い目に合ってきたのに。
また、できない約束をしてしまった。
てな訳で、息子との釣り道中が始まる事となったのだ。
え~っと、前置きが長くて済みません。
なかなか本題に入れなくて・・・
でもですね、この前置きは必要なんですよ。
インディージョーンズだって、いきなり冒険って訳じゃないでしょ?
いやいや、インディージョーンズは最初から最後まで冒険でした(-_-;)
でもねぇ、
冒険の前には、それなりの前振りがなければ・・・
だって、本当に危険な釣行だったんですよ!!
「序章」僕と息子と釣り針と・・・ [序章]
スラリとしたボディーに、怪しく光る虹色のパーマーク。
私たち、つまり私と息子は、
その魚に完全に魅せられてしまった。
・・
どうしても、彼女に逢いたかった。
・・ ・・
そして、そこで彼女に逢わなければいけないと思った。
それは、恋に似た感情だったかも知れない。
それは「一目惚れ」だったのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
海の無い埼玉では、釣りと言えば「ヘラブナ」が主流だ。
だが、それまでの私は全く「ヘラブナ」釣りとは縁が無かったし、
「ヘラブナ」釣りというのは小さい子供との釣りには適していなかった。
私は、よく息子を連れて近所に散歩に出かけた。
少し歩くと、お世辞にも綺麗とは言いがたい、
そしてとっても汚くて臭いどぶ川がいくつも流れていた。
その中でも「綾瀬川」は、当時の汚い川ランキングで、
ダントツのワーストワンだった。
(最近は綺麗になったと、風の噂で聞きましたが・・・)
それでも、土曜の朝八時頃に散歩に出掛けるると、そのワーストワンの
どぶ川のほとりに、釣り人の姿があちらこちらに見えるのだ。
こんな汚い川で釣り?
私と息子は、じっと釣り人たちが獲物を釣り上げる瞬間を待った。
浮きがピクピク動く。
何かが餌に食いついたのか?
次の瞬間、釣り人の手首は返されパシっという音と同時に竿がしなった。
竿の曲がり方から見て、素人の私でも大物がヒットしたのが分かった。
のはずだった。
うんざり顔の釣り人は、獲物の姿を見るまでもなく、「は~、またか・・・」
と言いながら、魚の代わりにぶら下がっている、泥まみれの靴を放り投げた。
日本一汚い川だから。
釣りは難しい。
思うようにはならない。
ある意味、恋愛に似ているかも知れない。
てな事を考えていると、別の釣り人のウキが反応したのが分かった。
今度こそ、と思った瞬間・・・
キラキラと光ったその体。
銀ブナだ!!
決して綺麗とは言えないし、釣り上げる時の引きや駆け引きも
さほどなく、ただ淡々と釣り上げている釣り人。
しかし、息子の目は違っていた。
それが全ての始まりだった。
それから私たち親子は、近くのどぶ川でフナ釣りを始めた。
ところが、これがなかなか釣れない。
どぶ川のフナ釣りなんて子供の遊びくらいに思っていた私は、
なぜ釣れないのか理解できず、完全に頭に血が上ってしまっていた。
それは全く当たり前の事だった。
どぶ川釣りも舟釣りも渓流釣りも、それぞれに釣り方があって、
そのルールを知らなければ釣れる訳はないのだ。
竿に針、適当な餌を付ければ釣れる。
全く、そんな生半可な考えで釣りを始めてしまった。
釣りの常識・・・
その事を知ったのは、随分後の事だったと思うが・・・
ある日、息子と二人で近所のペットショップを訪れた。
特に目的は無かった。
たまたま新聞のチラシに載っていたのと、
ちょっとした好奇心だけだった。
その水槽の前に行くまでは・・・
息子 「パパ!!」
「この魚は何て言う魚?」
私 「ん~、何だろう?、でも綺麗な魚だね」
「淡水魚で、こんなに綺麗な魚がいるなんて、パパも知らなかったよ」
息子 「パパ、この魚釣ってみたい!!」
今まで銀ブナしか釣ったことがないから当然だ。
水槽に貼ってある魚の名前と特徴。
「大陸バラタナゴ」
-淡水魚。綺麗な虹色の模様が特徴。-
初めて見る名前だった。
川魚にこんなにも綺麗な魚がいたなんて。
ところがその水槽の隣に、もっと心を揺さぶられる魚が待っていた・・・
「ヤマメ」
渓流の女王と説明が書いてある。
確かに、女王にふさわしい何とも言えない美しさがそこにあった。
虹色に光る怪しい模様。しかし「大陸バラタナゴ」とは確かに違う。
説明文にはこう書いてあった。
「特徴は体の側面にあるパーマーク」
何?パーマーク?
pinterestより
それから、私と息子の釣り日誌が始まったのだ。
渓流釣りがこんなに危険な釣りだとは・・・!!