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僕と息子と釣り針と18 臨場編その8 [趣味・渓流釣り・海釣り]



あの時、滝にさえ行かなければ・・・


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


1960年代に生まれた私は、もちろんロックが大好きだった。

ロックしか聴いてなかった。

たまに吉田拓郎井上陽水を聴いていた。


あの滝の水没事件からはスティングばかり聴いている。

スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」のサックスソロが始まると

何故か滝の主(ぬし) を思い出してしまう。

今頃彼女はどうしているだろうか?

何をどう考えても、京極夏彦の「狂骨の夢」なんかを読んでる訳はないのだが・・・

美しい顔をしていた。

とても綺麗なパーマークだった。



真夏の太陽が渓谷の川面を照らし始めたころ

私たち親子は新しいポイントを探していた。

滝壺だけは避けたかった。

「彼女」には逢いたかったが、命までは賭けたくなかった。


思ったよりも早くそのポイントは見つかった。

息子 「今日は僕が大物を釣るからね!!」

私  「頼んだぞ。でも主(ぬし)だけはやめとけ!!」

息子 「なんで?」

私  「あれは俺の彼女だから・・・」

息子 「逃げられたくせに・・・」

私  「・・・」


失恋の後というのは、どうもやる気がおきないようだ。

どうしても「彼女」の事を忘れる事が出来なかった。

完全に心を奪われていた。

他の「オンナ」を釣る気にはなれなかった。

他の「オンナ」は息子に任せる事にした。

彼女以外はどうでも良かったのだ。


私  「お前はそこで釣ってろよ。」
   「他のポイントを探って来るから。」

息子 「分かった!!」


川上に行くと息子に悪いので、ひとまず川下に向かった。

渓谷の川面を吹き抜ける風が、真夏の日差しの下ではとても気持ち良かった。

スティングはやめてイーグルスにしてみた。

「彼女」の事を忘れようと思った。

だって、私には「嫁」がいるのだ。

釣りをしてるだけでも機嫌が悪いのに・・・


頭の中ではイーグルスの「デスペラード」が静かに流れていた。

川の方向にせり出した木の枝を避けながら

川下に向かって足場の悪い河原を歩いていた。

せり出した木の枝は、河原を歩くにはとっても邪魔だった。

せり出した木の枝は、大きな岩を隠すように伸びていた。

だから、見えなかったのだ。

大きな岩の裏側が!!


息子 「釣れたよ-!!」

   「今日は僕の日だね!!」

そんな事は、どうでも良かった。

「彼女」が今どこで何をしてるのか、そればかりが気になっていた。

せり出した気に隠れた大きな岩を、とっても窮屈な態勢で通り抜けようとした。

いつもの様に川のせせらぎと小鳥の囀りだけが聞こえていた。

んっ?

何かがおかしい!!

通り抜けた大きな岩の辺りに、「何か」の気配を感じた・・・

「何か」が私を見ている!!

いや「何か」が私を狙っている!!

振り向くのが怖かった。

最新鋭の戦闘機にロックオンされたプロペラ機の心境だった。


いっとき、体が動かなかった。

変な汗が額を伝わって地面に落ちた。

直感で分かったのは、その「何か」は単体ではないって事だ。

ウジャウジャ居るのだ!!


夏の渓谷では、色んな生き物に出くわす。

ヘビはもちろん、時にはタヌキの夫婦に出くわす事もある。

ヘビやタヌキは団体行動はしない。

そして、ロックオンもしないはずだ!!


変な汗は体中を伝わって地面に落ちていた。

生きた心地がしなかった。

しなかったが・・・

冷静に考えてみると、「何か」が何なのか分からなければ

対処のしようがないじゃないか!!


意を決して、私の後ろで私をロックオンしている「何か」を確かめる事にした。

ゆっくりと、「何か」に悟られないように、兎に角ゆっくりと頭を動かしてみた。

私の頭が90度ほど回転したところで、「何か」と目が合ってしまった。


ヤツは私を見ていた!!


スズメバチの巣だった。

もう汗は出ていなかった。

体中が震えていた。

そこにあったのは、私の頭の二倍はあろうかという位ドデカイ巣だった。

巣の周りでは、とてつもない数のハチ達が私をロックオンしているのが分かった。

私とハチ達の距離は、多分2メートルも無かったと思う。

「ヤツラ」の顔がはっきりと見えたのだ。

ロックオンしたまま出撃体制を保っていた。

きっと、女王蜂の出撃命令を待っているのだ!!


私の体は無意識のうちに、とってもゆっくりと後ずさりを始めていた。

「能」の所作を思い出した。

マイケルジャクソンのムーンウォークを、超スローモーションでやってみた。

練習しておけば良かった。

ぶっつけ本番は、だいたい失敗するものだ。

いくらマイケルでも、河原の足場の悪いところでムーンウォークは出来ないだろう。

右足を後ろに滑らし、左足を動かしたところでバランスを崩してしまった。

少しよろけながら、それでも何とか持ち堪えた。

私の両目は、一瞬たりとも「ヤツラ」から離れなかった。

私と大勢のスズメバチは、睨み合ったまま距離を離していった。

女王蜂の出撃命令は出なかった!!


「ヤツラ」の要塞から5m離れるのに、いったい何分かかったのだろう?

体の震えは治まっていた。

助かったと思った。

生きている実感が湧いてきた。

ロックオンが解除されたのだ。


が、次の瞬間に本当の戦慄がどんなものかを

知りたくもないのに思い知らされてしまうのだ。


大きな岩の向こうから、息子の声がした・・・

ハチ達の標的は、息子に変更されていたのだ・・・


なんてこった!!



私の頭の中で、ツェッペリンの「天国への階段」が流れ始めた。

真夏の太陽は、私たちの真上で様子を見ていた。

 

これはヤバいですよ!!

それでは、またお会いしましょう。

さいなら、さいなら、さいなら~!! 



あの時、滝にさえ行かなければ・・・


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


1960年代に生まれた私は、もちろんロックが大好きだった。

ロックしか聴いてなかった。

たまに吉田拓郎井上陽水を聴いていた。


あの滝の水没事件からはスティングばかり聴いている。

スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」のサックスソロが始まると

何故か滝の主(ぬし) を思い出してしまう。

今頃彼女はどうしているだろうか?

何をどう考えても、京極夏彦の「狂骨の夢」なんかを読んでる訳はないのだが・・・

美しい顔をしていた。

とても綺麗なパーマークだった。



真夏の太陽が渓谷の川面を照らし始めたころ

私たち親子は新しいポイントを探していた。

滝壺だけは避けたかった。

「彼女」には逢いたかったが、命までは賭けたくなかった。


思ったよりも早くそのポイントは見つかった。

息子 「今日は僕が大物を釣るからね!!」

私  「頼んだぞ。でも主(ぬし)だけはやめとけ!!」

息子 「なんで?」

私  「あれは俺の彼女だから・・・」

息子 「逃げられたくせに・・・」

私  「・・・」


失恋の後というのは、どうもやる気がおきないようだ。

どうしても「彼女」の事を忘れる事が出来なかった。

完全に心を奪われていた。

他の「オンナ」を釣る気にはなれなかった。

他の「オンナ」は息子に任せる事にした。

彼女以外はどうでも良かったのだ。


私  「お前はそこで釣ってろよ。」
   「他のポイントを探って来るから。」

息子 「分かった!!」


川上に行くと息子に悪いので、ひとまず川下に向かった。

渓谷の川面を吹き抜ける風が、真夏の日差しの下ではとても気持ち良かった。

スティングはやめてイーグルスにしてみた。

「彼女」の事を忘れようと思った。

だって、私には「嫁」がいるのだ。

釣りをしてるだけでも機嫌が悪いのに・・・


頭の中ではイーグルスの「デスペラード」が静かに流れていた。

川の方向にせり出した木の枝を避けながら

川下に向かって足場の悪い河原を歩いていた。

せり出した木の枝は、河原を歩くにはとっても邪魔だった。

せり出した木の枝は、大きな岩を隠すように伸びていた。

だから、見えなかったのだ。

大きな岩の裏側が!!
渓流釣り場01.jpg

息子 「釣れたよ-!!」

   「今日は僕の日だね!!」

そんな事は、どうでも良かった。

「彼女」が今どこで何をしてるのか、そればかりが気になっていた。

せり出した気に隠れた大きな岩を、とっても窮屈な態勢で通り抜けようとした。

いつもの様に川のせせらぎと小鳥の囀りだけが聞こえていた。

んっ?

何かがおかしい!!

通り抜けた大きな岩の辺りに、「何か」の気配を感じた・・・

「何か」が私を見ている!!

いや「何か」が私を狙っている!!

振り向くのが怖かった。

最新鋭の戦闘機にロックオンされたプロペラ機の心境だった。


いっとき、体が動かなかった。

変な汗が額を伝わって地面に落ちた。

直感で分かったのは、その「何か」は単体ではないって事だ。

ウジャウジャ居るのだ!!


夏の渓谷では、色んな生き物に出くわす。

ヘビはもちろん、時にはタヌキの夫婦に出くわす事もある。

ヘビやタヌキは団体行動はしない。

そして、ロックオンもしないはずだ!!


変な汗は体中を伝わって地面に落ちていた。

生きた心地がしなかった。

しなかったが・・・

冷静に考えてみると、「何か」が何なのか分からなければ

対処のしようがないじゃないか!!


意を決して、私の後ろで私をロックオンしている「何か」を確かめる事にした。

ゆっくりと、「何か」に悟られないように、兎に角ゆっくりと頭を動かしてみた。

私の頭が90度ほど回転したところで、「何か」と目が合ってしまった。


ヤツは私を見ていた!!


スズメバチの巣だった。

もう汗は出ていなかった。

体中が震えていた。

そこにあったのは、私の頭の二倍はあろうかという位ドデカイ巣だった。

巣の周りでは、とてつもない数のハチ達が私をロックオンしているのが分かった。

私とハチ達の距離は、多分2メートルも無かったと思う。

「ヤツラ」の顔がはっきりと見えたのだ。

ロックオンしたまま出撃体制を保っていた。

きっと、女王蜂の出撃命令を待っているのだ!!


私の体は無意識のうちに、とってもゆっくりと後ずさりを始めていた。

「能」の所作を思い出した。

マイケルジャクソンのムーンウォークを、超スローモーションでやってみた。

練習しておけば良かった。

ぶっつけ本番は、だいたい失敗するものだ。

いくらマイケルでも、河原の足場の悪いところでムーンウォークは出来ないだろう。

右足を後ろに滑らし、左足を動かしたところでバランスを崩してしまった。

少しよろけながら、それでも何とか持ち堪えた。

私の両目は、一瞬たりとも「ヤツラ」から離れなかった。

私と大勢のスズメバチは、睨み合ったまま距離を離していった。

女王蜂の出撃命令は出なかった!!


「ヤツラ」の要塞から5m離れるのに、いったい何分かかったのだろう?

体の震えは治まっていた。

助かったと思った。

生きている実感が湧いてきた。

ロックオンが解除されたのだ。


が、次の瞬間に本当の戦慄がどんなものかを

知りたくもないのに思い知らされてしまうのだ。


大きな岩の向こうから、息子の声がした・・・

ハチ達の標的は、息子に変更されていたのだ・・・


なんてこった!!



私の頭の中で、ツェッペリンの「天国への階段」が流れ始めた。

真夏の太陽は、私たちの真上で様子を見ていた。












 
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