僕と息子と釣り針と13 臨場編3 [渓流釣り・アマゴ]
勘違いってのはよくある事で、
思い込みで失敗する事もよくある話だ。
息子が幼稚園児だった頃、私は30代半ばだった。
幼稚園の先生は、みんな若くて可愛かった。
嫁 「運動会の徒競走は出てくれるでしょ?」
私 「もちろん!!」
息子 「パパって、走るの早いの?」
私 「もちろん!!」
嫁 「負けたら酒やめてね~」
私 「もちろん!!って、なんでやねん!!」
幼稚園のグラウンドは小さい。
子供には丁度いいのだろうが、大人には窮屈だ。
そんな事は百も承知だった。
頭の中にはブルース・スプリングスティーンの「Born to Run」
が大音量で響いていた。
ノリノリだった。スタートするまでは・・・
「よ~い」と「ドン」の間は、普通は何も存在しない。
その「い」と「ド」のちょっとした隙間に、
もちろん誰よりも早く出発してしまった。
カーブまではトップだった。
当たり前だ、フライングなのだから(-_-;)
気持ちだけは、ゴールテープを切っていた。
でも足は気持ちに着いて来れなかった。
何でだ?自分の足に気持ちが伝わらない!!
カーブの途中で、私の足は私の気持ちにサヨナラを告げていた。
最悪の展開だった。
若くて可愛い先生に、無様な姿をさらしてしまった。
もう二度と徒競走には参加しないと
頭の中のブルース・スプリングスティーンが呟いた。
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◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今夜の酒は、間違いなく旨いぞ!!」
と、頭のなかの渡辺貞夫が呟いた。
ロックは危険だからジャズにしてみた。
ブドウ虫はやめて、川虫を捕獲した。
全てをヒラタ(川虫)に託す事にした。
川岸はやめて、川の中央にある大きな岩から攻めた。
正解だった。
微かな当たりに竿を合わせる。
ピシッ----
一週間前と同じ感触だ。
竿の穂先のしなりも同じだった。
不思議なくらい、とても冷静だった。
息子 「大丈夫?」
私 「・・・・」
息子 「落ち着いて!!」
私 「・・・・」
頭の中で渡辺貞夫の「パストラル」が静かに聞こえていた。
足場が悪かった。
大きな岩だと思っていたが、それほどでもなかった事に気が付いた。
「場所を変えなきゃ」
魚との距離を保ったまま、隣のもっと大きな岩に移ろうと思った。
大した距離じゃなかった。なんの問題もないはずだった。
飛ぶまでは!!
着地地点のわずか手前で、私の体は重力の偉大な力に負けてしまった。
初めての経験というものは、いつも突然にやって来る。
「ラブストーリーは突然に」 な訳なのだ。
4月の下旬とはいえ、水は冷たかった。そして思ったより深かった。
何とか川岸にたどり着くと、息子が心配そうな声で言った。
息子 「アマゴは?」
私 「そっちかい!!」
息子 「だって、まだ竿持ってるし!!」
私 「本当だ!!」
4月の冷たい川の水でびしょ濡れになりながら、
竿だけはしっかり持ったままだった。
また逃がしたかと思いながらも、竿をゆっくり立ててみた。
「ググッツ!!」
ピッシッ----
軽く合わせたまま、ゆっくり引き寄せた。
竿は少し倒して、無理をせずゆっくりと・・・。
「やっと逢えたね!!」
涙が出そうだった。
息子 「今度こそやったね!!」
私 「こいつは、とびっきりの美人だぜ!!」
その夜の酒は、いくら飲んでも酔わなかった。
いやっ、ベロベロに酔っていた。
だから、酔ってる事にも気付かなかっただけなのだ。
息子 「リベンジ成功だね!」
私 「男の約束だからな!!」
嫁 「たった一匹釣ったくらいで、なに盛り上がってんの?」
私 「・・・・」
息子 「・・・・」
だよな~、男のロマンは絶対に女には分からないよな~!!
ってやんでぇ、分かってたまるか~(笑)
なぁ、息子よ!!
はい、もう少しお待ちくださいね。
これだけ期待させたんだから、とんでもないクライマックスがあるはず・・・
と思っているアナタ。
これからですよ~
それでは、またお会いしましょう。
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